衝撃の書 〜一度は手にしても惜しくない〜

■このシリーズは文字通り「衝撃の書」でその主張を筆者が支持しているわけではありません

その1

廣西元信
「資本論の誤訳

 本空手道松濤会師範で反共右翼皇道派でも著名な廣西元信先生の「資本論の誤訳」は古書店での入手も殆ど不可能で、「幻の書」であった。

 私が学生時代(昭和46年ごろ)、この本を探してあちこちをほっつき歩いた時から、もう30年も経っているのに、つい昨日のことのように思い出される。
 大学図書館には置いてなく、ようやく京都府立資料館で見つけた(記憶あいまいで他所かもしれない)時は、感動したものである。

 その本が、こぶし書房「戦後日本思想の原点」の1冊に選ばれ、このほど復刊され、誰でも手にすることができるようになったのは、値段が3,600円とちょっと高いことを別にすれば、恵まれた環境になったものと思う。

 さて、廣西先生はこの書の序文から衝撃的な内容で書き出す。

 「社会主義とは生産手段の社会的所有のことであると言われている。社会的所有という言葉は、西欧では社会=会社のことだから、会社的所有ということです。」「マルクスの母国語であるドイツでは、ゲゼルシャフトがもう、この一語で、社会=会社の両義を含んでいます。」  「したがって社会的所有という概念は、読んで字の通りで、会社的所有のことです。」

 廣西先生は社会主義=国有化と信じられていた時代に(今もそうだが)、社会主義=会社主義として共産主義は株式会社の基礎のうえで成立するものであることを主張し、国有化という珍奇な理論が西欧の市民社会を体験していない「後進国」のレーニン(や中国の指導者)などの誤読と誤訳と曲解にもとづくもの、日本においてもこれらが無批判的に受け入れられて成立したものであることをあきらかにする。

 その例として、「連合」と「結合」の訳語にかかる問題、「所有」と「占有」の訳語、理解にかかる問題、その他数々の問題を取り上げている。

 ここでは前者について若干紹介しておこう。

「邦訳の一番悪い点は、連合生産者が結合生産者と誤訳されていること。社会主義を意味するアソシエート(連合・提携)と、資本主義を意味するコンビネート(統合)とが、同じように 《結合》などという訳になっていること。」「コンビネートは上からの統括・支配の意味、アソシエートが横の提携・連合である」。
「マルクスは、このような上からの支配・統括生産に対抗して、労働者たちが、横に連合・提携するアソシエート、アソシエーションを主張」
 「マルクスは社会主義の生産様式を説明する場合は必ず、このアソシエートなる言葉を使用する。そしてコンビネートなる用語は、ただ、資本主義の生産様式を説明する場合にだけ使用する」
「それほどに厳格に区別されている言葉を、同じように混同して《結合》などと誤訳するのですから、最大の悪癖訳だというわけです。」

 何処でよんだのか、誰が書いたのか記憶していないが「誤訳−−−大学教授の頭のほど」という論文があったような気がする。アソシエート(連合・提携)の誤訳は、これを地でいっているような、内容を全然理解していないことを自己暴露した ものといえる。もちろん日本だけでなく、ロシアや中国も同じである。

 「所有」と「占有」にいたってはエンゲルスすら理解していないことを暴きだし、かの有名な「否定の否定」で「共同占有を基礎として個々人的所有を再建する」 と明言されているにもかかわらず、これを卑俗な国有化にすり替えた背景の解明に入っていくことになるが、ここではやや専門的になることもあり、字数の関係上省略する。

 「資本制的株式会社。資本家の統合(コンビネート)生産、株主たちの共同所有
 「社会主義。経営者と労働者の連合(アソシエート)生産。経営者と労働者の共同占有
が廣西元信先生の結論ということだろうか。

 これだけでは何のことかわからないとういう方は是非一度本書を手にして読まれることをお勧めする。

 西欧の市民社会のもとで練られたマルクスの思想は、当然のことながら「全面的に発達した諸個人」がアソシエート(連合)とすることによって将来の社会を考えようというもので、30年前、 私は「国有化は所有の最も疎外された形態ではないのか」という素朴な疑問を持っていたところで本書を知り、その内容に少なからず共感を覚えた記憶がある。

 1966年に出版され、学会ではずっと無視され続けた書である。僅かに、翌67年、「宇野経済学方法論批判」 (62年現代思潮社)の著者で、宇野経済学を高く評価するとともに最初に体系的に批判し、政治的には廣西元信先生とは正反対の立場に立つ黒田寛一氏が、「資本論以降百年」 (こぶし書房)の脚注のなかで本書をとりあげ、また1968年には東大文学部長(後総長)の林健太郎氏が新聞紙上でとりあげたとされる程度ではなかろうか。

 一般に少し知られるようになったのは、70年代に入ってからの月刊雑誌(「情況」坂間真人)論文ではなかったかと記憶するが、今回、倉庫を探しても見つけることはできなかった。代わりに永らく行方不明であった廣西先生の「左翼を説得する法 マルクス主義者の泣き所」を発見でき、思わぬ収穫があった。

 廣西先生の「左翼を説得する法 マルクス主義者の泣き所」(70年全貌社)はその俗っぽいタイトル と出版元とは裏腹に、先生の理論的研究の成果そのもので、「非常識」なレーニンや毛沢東の批判、廣西説を剽窃して個体所有なる説を打ち出した平田清明氏や 向坂訳をベースにした宇野弘蔵氏の批判、エンゲルスが根本的なところでマルクスの思想を理解していないことを批判した充実した内容となっている。
 入手は困難で図書館にも置かれていないと思われるが、先生の主張に賛成の人も反対の人も、筆者もその主張に賛同しているわけではないが、機会があれば、これも一度は手にしたい書である。

 


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廣西著のもう1冊
(「左翼を説得する法」)
 

 


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