企業の管理者に読んでほしい本
 

■■■是非チャレンジしてみて下さい■■■

その1

石田光男監修・解題、楠田丘他著
楠田丘オーラルヒストリー
「賃金とは何か」
戦後日本の人事・賃金制度史

 馬遼太郎の作品で私の好きなもののひとつに『花神』がある。明治維新で大きな足跡を残した大村益次郎を取り上げた歴史小説で、大河ドラマ化されたこともあり、中高年の人は記憶しておられると思う。
 花神とは中国の言葉で花咲爺をさしている。司馬は、幕末から明治維新の激動の時に、彗星のごとく登場し、その役割を終えたらすぐに散ってしまった大村をこれに例えたわけである。
 時代が求めた時に忽然として現れたという点で楠田氏も共通であるが、その役割はまだ終えていない(と筆者は考えるが)点で相違している。

 書「賃金とは何か−戦後日本の人事・賃金制度史」は戦後日本の経済発展のなかで、企業の人事・賃金制度を文字通り牽引した楠田丘(くすだきゅう)のオーラルヒストリーである。
 オーラルヒストリーとは聞きなれない言葉かもしれないが、証言による歴史記録の一種で、聞き手は同志社大学文学部教授の石田光男氏である。

 田氏は冒頭の解題で、「現場に足を運びそこの声に、あるいは人々の<叫び>に謙虚な姿勢を保った改革論議は近年絶えて久しいのではないか。政策が理論からやってくる、という大きな勘違いを犯した今の私たちには、この手間のかかる作業を煩わしく思うが、それは倣慢という誹りを免れない態度だろう。この態度を改めるだけでも難しいのにさらに、現場の情感を制度の組み立てにまで仕上げていくことが本当の力強い知性のあり方なのだということを理解するのはもっと困難なことだろう。だが、そういう人がこの日本にもいたのだということを忘れないでおくことくらいは私たちにもできるのではないか。」と、楠田氏とその業績をオーラルヒストリー化する意義を述べている。
 「知的熟練」の小池和男氏(元名古屋大学教授)や本書の対談者でもある石田光男氏を、「実証性に欠ける」として激しく批判している野村正實東北大学教授、遠藤公嗣 明治大学教授の両氏を、暗に皮肉っているようにも読みとれる。

閑話休題

 、日本の人事・賃金制度は「成果主義」に 大きく揺さぶられ、シフトしつつあるかに見える。それは明らかに楠田氏が牽引してきた日本型の賃金制度「職能資格制度」の否定として登場してきたものである。しかし、成果主義論者の「知らない世界」がこの書で展開(証言)されている。

 田賃金論を単なるコンサルタントの理論として見、社会科学的に検討するという作業はこれまで殆ど行われていない。
 楠田氏を知らない人のために簡単に氏の略歴を紹介すれば、九州大学理学部数学科で統計学を専攻した後労働省に入り、労働統計の基礎や第1回目からの労働白書を手がけたのち、経済企画庁経済研究所主任研究員、アジア経済研究所主任調査研究員を経て官吏を退官、昭和45年から産業労働調査所附属日本賃金研究センター主任、日本生産性本部主任研究員として本格的にコンサルタント業務に専念し、日本の労使の中枢部に大きな影響を与えた。
 氏を知らない人も、実は氏が設計した人事・賃金制度の影響のもとでビジネスに従事していたのである。
 
 とより、ここは楠田理論の検討を行う場ではなく、単なる書籍紹介に過ぎないが、楠田賃金論を一言で言い表わせば、それは人間の潜在的能力を信頼して、この向上を図ることによって生産性も、仕事の質も、そして労働者の賃金(所得)も引き上げていこうとするものである。この意味で「人間基準」の賃金論であるとともに、「会社基準」でもあったのである。
 楠田氏もはじめからこのような賃金理論にたっていたわけではない。年功賃金からの脱却、しかし米国式職務給への安易な導入気運に対する反発、しかし一方ではその「科学的」手法の受容。試行錯誤は当然であるが、根底にあったのは「現場主義」(現場からの疑問・質問)、楠田氏自身も石田氏もこの点に高い評価を与えている。
 むろんそれだけでは無い。若き日、統計マンとして生計費や賃金の実態調査を設計し、経験した氏が、「賃金とは何であり、どうあるべきか」を不断に問い続け、強靭な思弁力で構築した体系といえる。
 それが、ある程度明確なかたちで世に出されたのが、往年の名著「職種別職能給導入の手引〜技能度による職能資格別賃金の提唱〜」(昭和45年、産業労働調査所刊行)である。楠田理論の原型がはじめて体系的に開示されたのである。

 書はそこに行き着くまでの様々なエピソード、そしてそこから、さらに「体系」への確信と確立にいたるまでの道程を、やや行きつ戻りつの感はあるものの、当時の現場の雰囲気とともに私達に伝えている。
 興味を持たれた方は、膨大な氏の著作のなかから、是非一度「賃金テキスト」(経営書院)を読まれることをお薦めする。
 
 終章では、最近の成果主義にたいして、楠田氏も石田氏も懐疑的、というより批判しているが、過去の日本的人事・賃金制度の成果と発展を何も 知らないまま、「成果主義」の導入を図れば、「産湯とともに赤子を流すこと」に等しい結果となることは、本書を読めば理解できるであろう。
 「日本的経営」のもとでの楠田賃金論が、グローバルスタンダードの攻勢、終身雇用制度の終焉の中で大きな転機にたっていることは間違いない。しかしそれを乗り越えるためにも楠田理論の「学習」は欠かせない。

 事管理のマネージャだけでなく、ベンチャー企業の若い経営者にも是非読んで欲しい本である。

 


 

 




↑楠田賃金論の原型

 

↑楠田氏はアジア経済研究所からアジア諸国の賃金制度などについて複数のレポートを出している。本書は労働市場についてのレポート


TOPへ戻る読書室・資料室に戻る

SEO [PR] お金 ギフト  冷え対策 特産品 動画無料レンタルサーバー SEO