福井金融界の覇王破綻
 

九十二銀行支払停止破綻と 経過


 市内株式会社九十二銀行は、一昨夜突如として十一月二十より十二月三日まで二週間臨時休業を為す旨を届出たり。蓋し同行の破綻は日本絹糸株式会社に対する約九万円、南越生糸株式会社に対する約七万円、その他大口の貸金にして特に死債となりたるもの約二十万円あり。資本金四十万円(この払込三十万円)の大部分は殆ど減耗せることは、久しき以前より公然の秘密として世間に知れ渡りたるを以って、其の今日あるは世人の予期したるところにて、世人は寧ろ今日まで破綻をなさざりしを不思議なりとして為し、是れ偏に石田磊氏の温厚篤実なる人格と信用とに因り、兎にも角にも彌縫せらるつつあるならんと信じ居りし矢先なれば、今更ら此の臨時休業に驚愕するものなかるべきも、而かも同行は元来士族連の公債を基本として組織せし国立銀行にして、営業期限満期後、株式会社の私立銀行と為したるものなれば、その株主は概して士族にして而かも其の員数は頗る多く、随って士族連は此の銀行を唯一の生命の綱と恃み、其の配当金によりて生活し居りし事なれば、同行資本の大部分が減耗し、臨時休業を為すの已むなきに至りし事実の公然発表せられたる今日は、是れ銀行の破綻と云うよりは寧ろ旧藩士族連の破産と云うべき程なるが、故に士族連の迷惑は存外に甚だしかるべし。
 されど他の市内銀行は、久しき以前より同行と大口の取引を為さざりしのみならず、大手筋の商人も亦同行と取引関係を有せざりしが故に、同行の臨時休業の為め影響を感ずるものは、多数の小株主と取引関係にある小商人とに過ぎざるが、故に同行の臨時休業は福井市全体の経済界に取りては左までの大影響なかるべし。
 そもそも同行が今日まで彌縫し来たりながら、突如として今回の休業を断行するに至りし原因は。第一同行の取扱いに係る国庫金は近来些少にても余剰あるときは直ちに名古屋へ回送することとなりて、此の国庫金を利用する機会なきに至りしこと、第二日本絹糸に対する新貸付に関することと。第三に私消事件などの為め、到底彌縫の余地なきに至りしを以って重役は一切の事情を打ち明け、本県知事に具申し、知事は密行して日本銀行に至り救済方法を講じたるも、その手段なきに至りしかば、終に一昨夜を以って公然臨時休業の届け出るに至りしと云えり。
 要するに同行の破綻は、世人の疾に予期して疾に準備したることにして、今年末には必ずこの事あるべく想像せしものが、二三十日早く発表せられたるに過ぎざれば、市経済界には左までの影響なかるべく、神経過敏のものが多少他の銀行へ取付を為すも各銀行においてはすでに十二分の支払い準備を為し居るを以って、何らの恐慌も見ざるべし。


(「福井新聞」明治四十年十一月二一日)


注1:掲載にあたり一部句読点を補充、また旧字体を新字体に一部置換しております
注2:団体発行物の著作権は発行後50年です。明治期の著作権はすでに消滅しております

 

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