【地域公共政策学会「地域公共政策研究」第2号(2000年6月)掲載】
本稿は1999年当時の実情で書かれています。内容面では古くなっていますのでご注意下さい。


サイバービジネス(EC)の進展と地域中小企業
〜地域密着型モールの要件と課題〜

奥 山 秀 範

1.急速に拡大するECビジネスと小規模企業

 高度情報化社会の進展により、インターネットで商品を全国販売するという、サイバービジネス(EC)が急速に進展している。わが国におけるEC市場は、平成7年(95年)にわずか7億円であったものが、平成10年には1,665億円、現在では優に2,000億円を超えていると推測され 、文字通り飛躍的な発展を遂げている。通産省の予測によると、わが国におけるサイバービジネス(EC)市場は、2003年には3兆1600億円と試算されている。

 インターネットビジネスは「インターネットコマース(Internet Commerce)」、「インターネット接続ビジネス」及び「インターネット関連ビジネス」に分類でき、さらに「インターネットコマース」は、企業−消費者間の取引であるB to C(Business to Consumer)市場と、企業間の取引であるB to B(Business to Business)市場に分類される。ここではサイバービジネス(EC)をB to C(Business to Consumer)市場に限定して使用している。以下同様である。
 

 店舗件数では野村総合研究所サイバービジネス・ケースバンクの調査によれば、インターネットコマースの最終消費財分野で営業している店舗数は10年12月末において13,474店舗であり、対前年同期比で約8割の伸びになっている。また郵政省が行っている「インターネットコマース調査」でその実態をみると、このようなサイバービジネス(EC)の経営に携わる事業所の経営規模は、従業員数が10人以下と回答している店舗(サイト)が6割を超えており、この分野への参入企業には小規模な企業が多いことが見て取れる。また店舗(サイト)運営人数に関していえば1〜2人で運営しているケースが殆どであり、比較的小規模な運営が行われているものが多い。
 ある意味でサイバービジネス(EC)は小回りがきき、迅速に意思決定ができる小規模企業に適した業態と言えるかもしれない。
 しかしながら、現状では、小規模企業がこの市場に参入できるのは極めて限定されたものとなっている。サイバービジネス(EC)で商品販売に取り組むにはネットワークや情報機器のノウハウが必要であり、地場の小規模企業ではその知識や経験が充分ではないのである。もとより、小規模企業といえども現在ではパソコンを設置し業務には十分に活用しているケースも少なくないが、その大半はスタンドアロンでの利用であり、それらをネットワークで活用するだけのノウハウと要員は乏しいのが実情で、これが参入障壁となり、サイバービジネス(EC)への取組みも、未だ少数にとどまっていると考えられる。

 利用者サイドからインターネット普及状況をみると、10年度における我が国のインターネット利用者数(15歳から69歳まで)は、約1,700万人(推計)にのぼるという。これは同年齢層の総人口の約18%であり、9年度の約1,150万人から 550万人もの急速な増加を示している。(「平成11年版通信白書」)


2.福井商工会議所のプチモール事業の目的と特徴・意義

 福井商工会議所では従来から開設していたサイバーモールに加え、平成11年12月から、新たなサイバーモールとして「プチモール福井」を開設した。これは、中小企業のサイバービジネス(EC)参入の機会を増大し、有効な販路開拓支援ツールを提供することを目的としたもので、前述したとおりネットワークのノウハウや担当要員が乏しい小規模事業であっても、インターネットビジネス、サイバービジネス(EC)に参入できる仕組みを新たに組み込んだもので、具体的にはPC(パソコン)がなくても、小規模事業者が現に所有するFAXと電話があればサイバーモールでの受発注が可能となる新システムである。

 このシステムの大きな特徴は、事業者はPC(パソコン)なしでもネット受発注を完結できるビジネスモデルであることがあげられる。
 サイバービジネス(EC)である以上、消費者側はPC(パソコン)とインターネット環境が必須であるが、事業者はPC(パソコン)を使用しなくても、注文データ(コンピュータのメール情報)を商工会議所側のサーバーでFAX情報に変換して事業所に送信するため、注文情報をFAXで受信することができる点が特徴の一つである。
 もとより、注文メールをFAXに変換することはこれまでにも無かったわけではないが、当所のシステムの独自性は、注文に対する返信・確認情報を電話のプッシュ信号を活用することによって、事業者側から逆にメール情報に変換送信し、消費者側に応答できる双方向のシステムとして、「完結モデル」として提供したことにある。
 また返信情報としては、注文内容の再確認だけでなく、「即納」「何日後発送」「季節もので発送に日時を用する」など様様なケースが考えられるが、これらをパターン化すると同時に、プッシュ信号でパターン選択の中に情報を付加できることで多様な取引形態に対応可能とし、全国でも例のない独自のシステムとして構築された。

*PC(パソコン)を利用できる事業者は、FAXや電話を利用する必要性は無く、PCで参画できる。

 開設にあたって福井商工会議所ではモール参加者と販売商品には一定の枠を設置した。
先ず、対象事業所は県内で事業所を有する小売業者が原則であるが、製造業者であっても新たに本事業で消費者向け販売に参入する事業所、また営業経験がないが、本事業を機に開業・商品販売をおこなう個人も参加可能とした。その代わりというわけではないが、取り扱い対象商品は県産品に限るものとした。
 これはどこでも扱う商品を販売しても、膨大なインターネット情報の中に埋没しあまり意味がなく、地場の中小企業が参加したモール事業である以上、むしろ福井にこだわることによって特徴を打ち出し、消費者の関心を高め、アクセスの向上と販売増加に繋げることを意図したものである。幸いなことに、福井は「海の幸」「山の幸」「伝統工芸」等地場商品にめぐまれており、また同時に、これらは地元の小規模な事業体で製造・販売、経営されているケースが多く、今回の事業趣旨にも適していると考えられたからである。

 さらに、今回のモール参加者には、原則1事業所1品の販売と限定した(S・M・L等のセットは可、複数商品を出品したい場合はセット販売で対応)。一見意味のないように考えられる制限であり、むしろ消費者の選択肢を広げる意味で、特に制限しないとする考えもあるが、各事業所、経営者が、他では入手できない商品、自信をもって販売したい商品等を出品・販売することによって、それらの統合体としてのモールの付加価値を高めることが可能となるからである。
また、通信販売への参加が初めてという小規模事業所が多いため、配送業者をモール全体で統一し、十分な要員を確保できない参加事業所の事務手続の軽減に努めるとともに、配送料自体の低減も図っている。


今回のプチモール事業は
(1)長引く消費低迷の中、本県中小企業がこれまで参入しにくかった情報による販売促進ツールを提供することにより、中小企業の活性化を図り、ひいては県全体の産業活性化が期待できる
(2)電話とFAXでインターネット販売が可能となるため、通常ではインターネット通販に載らないような福井県の地域特色あふれる商品が数多くネットワーク上に登場し、これまで情報提供のみに頼らざるを得なかった福井県のPRを商品購入・消費という実体験を通して行うことができる
(3)小規模企業を中心とした参加形態で、実際PC(パソコン)ではなくFAX活用が参加者の8割を占めていることから、この事業で初めてサイバービジネス(EC)に参入できた企業が多いことを示しており、本県中小企業の情報スキルを向上させるとともに、本県全体の情報ネットワークのボトムアップが図れる
など、従来のモールとは異なる意義を有するものと理解している。
 

3.モール参加事業所の実態と登録商品

 1999年12月1日のオープン時は158社が出店。その後追加が35社あり、現在合計193社が参加登録している。その内77.2%がFAXでの受信方法をとっており、はじめてネットビジネスに挑戦する事業所が多い。拡大するネットビジネス市場での販路開拓にむけた事業所の意欲がうかがえる。
 登録商品には、米、味噌、醤油、酒などの農産品をはじめ、かに、わかめなどの水産品、羽二重餅、水羊かんなどの菓子、越前漆器や打ち刃物、三国箪笥といった工芸品、本県の基幹産業でもある繊維製品などバラエティに富んだ県産品が集まっている。また、お歳暮や贈り物をねらいとしたセット物も多く見られる。商品の大まかな分類と店舗数は以下の通りとなっている。
 

ふくい美味いもの市

24店

ほろ酔い地酒

16店

とれとれ鮮魚・海産物

20店

伝統の味 越前そば

15店

こだわり銘菓

28店

ふるさとの米・味噌・醤油

17店

職人の技 木製品・工芸品

28店

おすすめ衣料・織物専科

19店

特選ふくい県産品

26店

合計 193店舗

 

4.今後の課題と事業予定

 現在、どの地域でも廃業が開業を上回り、今後の地域経済の活力が懸念されており、様々な機関によって創業・起業支援策が実施されているものの、その効果は決して満足のいくものとはなっていない。このままでは地域経済そのものが陥没しかねないとの声も聞かれる。そのような中、全国に向けて有力な販売網・ツールを有しない小規模事業者にとって、比較的少ない投資で全国マーケットに進出できるサイバービジネス(EC)は極めて魅力的であり、中小製造業者も巻き込み、強い影響力を行使するであろうことは想像に難くない。地域の小規模事業者にとっても「勝ち残り」のための重要な要件となるであろう。
 また、新規開業にしても、店舗を構えるための土地・建物の賃借について相当額の投資が必要であるが、サイバービジネス(EC)はこれらを軽減させ、意欲ある起業家にあらたなビジネスチャンスを付与するものといえる。

 これらをふまえ、平成12年度は、特に本モールの全国向け広報を強化し、モール自体を全国の消費者が買いやすい仕組み、リピーター育成(ファンづくり)のためシステムの一層の改善・機能強化に努めるとともに、本システムを活用し、全国向け有力販促ツールとして利用できるよう、参加事業所を対象にしたインターネット販売のノウハウから商品開発まで電子商取引に関する幅広い研修会を実施する。情報ネットワークについてのすそ野の拡大により、将来は独立したサイトが開設できるよう教育訓練を強化する計画である。
 また、事業者側も、サイバービジネスを通販カタログのイメージで捉えているきらいがあり、体裁のきれいなカタログをイメージしているが、消費者が地方発のモールにそれを求めているかは疑問である。むしろ、モノを生産している現地の空気が伝わらなければ、なかなか実際の購買にはつながりにくいと考えられる。この点で、事業者も今後は、実際にモノを作ったり、収穫している「現場」での地域に根ざした「土や海の香り」がする情報発信を強化する必要がある。デフォルメされた広告(情報)に、消費者はもう購買欲をそそられることはない。

 本モールを地域発信型の特色あるオンラインモールに特化することで、新しい形の地域PR、地域活性化手法として確立するよう取り組みたい。
 

 

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